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東京地方裁判所 昭和40年(特わ)594号 判決 1967年4月27日

理由

(罪となるべき事実)

被告人は昭和四〇年七月二三日施行の東京都議員選挙に際し目黒区から立候補した小松勝子の選挙運動者であるが、同候補者に当選を得させる目的で、同月一五日ころ、別紙一覧表記載のとおり安東秀雄ほか四名に対し、それぞれ右候補者の選挙運動用五号ポスター二枚(いずれも無証紙)、同候補者の氏名、写真、略歴、考えと決意、推せん者の氏名および推せんのことば等を記載した文書二枚および同候補の氏名、写真、選挙区、略歴等を含む「日本共産党都議会議員候補者一覧」と題する文書一枚(但し、山本弘方を除く)を配布し、もつて、右法定外選挙運動用文書を頒布したものである。

(弁護人らの主張に対する判断)

一本件起訴は、公職選挙法違反を口実に、日本共産党およびこれを支持する民主陳営、特に目黒民主商工会の組織破壊をねらい、政治的弾圧の意図のもとになされたものであつて、公訴権濫用の場合にあたるから不適法として公訴棄却を免れぬとの主張について、

証人斉藤洋治、同坂上正憲の当公判廷における各供述によると、本件は碑文谷警察署勤務の斉藤洋治巡査が昭和四〇年七月一五日午後二時三〇分ころ目黒区目黒本町四丁目(当時の向原町)付近を視察中たまたま本件犯行を目撃したことに端を発し捜査が始められたものであることが認められ、これに従事した警察官が特に被告人に目をつけ共産党あるいはこれを支持する目黒民主商工会の組織破壊をねらい合法的政治的活動を弾圧する意図を有していたとか、又検察官が同様の意図のもとに本件公訴を提起したことは全証拠を検討してもこれを認め得ないし、記録に徴しても、本件公訴提起の手続がその規定に違反してなされた点を何等見出すことができない。したがつて、弁護人らの前記主張はその前提を欠くものであつて採るを得ない。

三公職選挙法一四二条は表現の自由に対する不当な制限を加えるもので憲法二一条に違反するとの主張について、

憲法二一条は言論出版その他表現の自由を絶対無制限に保障しているものではなく、公共の福祉のため必要ある場合には、その時、所、方法等につき合理的制限を加えることを容認していること、そして、公職選挙法一四二条が公職の選挙につき頒布し得べき文書図画の種類、数量を制限し規制を加えているのは、無制限の文書図画頒布を認めると選挙運動に不当の競争を招き、これがため、かえつて選挙の自由公正を害し、その公明を保持し難い結果を来すおそれがあるので、かかる弊害を防止するため文書図画の頒布につき一定の規制をしたものであり、かかる規制を認めた公職選挙法一四二条の規定をもつて憲法二一条に違反するものというを得ないことは最高裁判所の判例(昭和三九年一一月一八日大法廷判決一八巻九号五六一頁参照)とするところであるから、違憲の主張も採用しない。(斉川貞造)

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